「海洋保護区」の理念に沿って、生物多様性を低下させる埋立て、浚渫は禁止を!-

 わたしたちは、2024年7月に山口県光市で開かれた環瀬戸内海会議第35回総会で、瀬戸内海における生物多様性の維持・向上には、国の計画にも位置付けられている「海洋保護区」が重要な視点であることを学びました。
 これを踏まえ、以下の2点を環瀬戸内海会議の重点課題とするとともに、国の政策・方針でも尊重されるよう求めていくこととしています。
 ➀既に選定されている海洋保護区を「生物多様性の保全」という目的に沿って保持するための法的措置を整えるよう求めていくこと。
 ➁瀬戸内海での海洋保護区を拡大すること

 以下は、国際的な生物多様性の動きと日本の政策とその課題を含め、上記の重点課題の考え方についての、湯浅共同代表の解説です。

0.生物多様性の確保 -始まりはリオの地球サミット-
 21世紀に入る直前の1980年代から人類は地球の環境容量という壁に直面し、生物多様性の急激な低下や気候危機への対応を迫られていました。そこで1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロでの国連環境開発会議(地球サミット)において気候変動枠組み条約と生物多様性条約をセットでつくりました。以来30数年間、国際的取り組みを進めましたが、両者ともに成果の兆しが見えてきません。それでもこの間、生物多様性の保全を目的として世界各地の陸と海の一部を保護区として選定し、一定の努力をしてきています。
 この流れは瀬戸内海にも及んでいます。1973年、瀬戸内海の環境保全を目的として瀬戸内海環境保全臨時措置法という法律が作られました。同法は2015年の改正で、先の国際的な流れを反映して「生物多様性の確保」が基本理念として初めて導入されました。

1.生物多様性の保全を目的とした海洋保護区
 2010年、名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議は、2020年までに海の10%を保護区にすることを含む「愛知目標」に合意しました。これを受けて日本も取り組みを進め、環境省は、2011年5月に策定した「我が国における海洋保護区の設定の在り方について」において、「海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全及び生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域」を「海洋保護区」と定義しました。
 環境省はこの定義により、以下の「特定された区域」を「海洋保護区」としています。
  ・自然公園(規定法:自然公園法、管轄:環境省。以下同じ)
  ・自然海浜保全地区(瀬戸内海環境保全特別措置法、環境省)
  ・自然環境保全地域(自然環境保全法、環境省)
  ・鳥獣保護区(鳥獣保護管理法、環境省)
  ・海洋水産資源開発区域(海洋水産資源開発促進法、水産庁)
  ・共同漁業権区域(漁業法、水産庁)
 この結果、2020年には海域の13.3%が保護区となり、愛知目標は達成されたと報告されました。沿岸域の相当部分が海洋保護区であり、その中で最も大きな面積を占めるのは漁業法に基づく共同漁業権区域です。
 皆さんは、瀬戸内海の海洋保護区がどこかをご存じですか? 残念ながら環境省のHPにそれを一覧できるサイトはありません。私たちも、2023年11月、「瀬戸内法50年プロジェクト」の一環として行った神戸シンポジウムにおいて講師の鷲尾圭司氏(水産大学校元理事長)の講演で、「既に瀬戸内海の多くが海洋保護区となっている」ことを初めて知りました。
 瀬戸内海の海洋保護区を図面で把握できないか、2025年1月に環境省の担当部局にヒアリングを行なったところ、各国の保護地域は国際データベース(世界共通)に登録されており、それを辿(たど)ることで保護区域の所在を特定できることがわかりました。そうして得られた瀬戸内海の海洋保護区が図1です。

図1 瀬戸内海の海洋保護区(濃い青部分)*国際データベースより作成

 これによれば姫路沖から下関までの山陽側の海岸線沿いのほぼ全域が海洋保護区です。徳島県・香川県・愛媛県、福岡県、大分県の海岸線に沿った海域も、ほぼすべて保護区です。一方で、大阪湾のほぼ全域を初め「鹿の瀬(しかのせ)」を除いた播磨灘の中央部、周防灘(すおうなだ)・伊予灘から豊後水道の沖合海域、燧灘(ひうちなだ)の南側など相当広い海域は保護区から外れています。
 皆さんの身近にある海は海洋保護区に入っていますか? ぜひ確認してみてくだい。

また、2022年12月に開催された第15回生物多様性条約締約国会議では、昆明(くんみん)・モントリオール生物多様性枠組が採択され、「2030年までに、少なくとも陸と海の30%を保護区にする」(いわゆる30by30[サーティ・バイ・サーティ])という高い目標が掲げられました。海については愛知目標に比べ3倍高い目標です。
 これを受けて日本政府は、2023年3月、第6次生物多様性国家戦略を閣議決定しました。現在、環境省は2030年までに30by30を実現するための作業を進めています。その中に瀬戸内海で未だ保護区になっていない海域を保護区にすることも一つの仕事です。

2.海洋保護区に対する国の姿勢への疑問 -埋立てや防波堤建設をしても許されるのか?-

 問題は、これらの保護区において「生物多様性の保全」に反する行為が禁止されているのかどうかです。環境省は、「保護区の制度は各種区域を生物多様性に資するものとして運用されており、統一的な規制があるわけではない。それぞれの目的に応じて省庁が海洋保護区を設定管理している。」「海洋保護区であるからといって新たな規制がかけられるものではない。世界各国でも多種多様な海洋保護区があり、対象区域ごとに運用されているものと考える」と説明するだけです。
 その結果、個々の海洋保護区においては、例えば以下のような矛盾が生じています。

3.環瀬戸内海会議が提案する2つの重点課題
 現在、環境省は、2030年に向けて「昆明・モントリオール生物多様性枠組」や生物多様性国家戦略で示した30by30を実現させる作業を進めています。2025年4月に施行された「地域における生物の多様性の推進のための活動の促進等に関する法律」に基づいた「保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域(OECM)」も一つの取組みですが、保護される面積はそれほど大規模ではなく、<30by30>全体への寄与は限られています。また、沖合の底曳網漁業で管理している海域を保護区に指定することで30%を超えるのではないかとの推測もあります。
 こうした状況においては、<30by30>を意義あるものとするために、2つのことを並行して求めていくべきです。

➀既に選定されている海洋保護区を「生物多様性の保全」という目的に沿って保持するための法的措置を整えるよう求めていくこと。

 現状では、政府や自治体は本気で法体系の変革をする意思はなく、環境省や自治体の担当部局に任せておいたら何も前進しないことは明らかです。市民の側から積極的に法的措置を求めていくことが不可欠です。
 まずは、市民、特に漁民が生業を営む海域が海洋保護区であるか否かを確認し、そこで何が進行しているのかをチェックすることが重要です。こうした中で、私たちが暮らす地域で諸々の開発行為などと海洋保護区との関係を検証する作業が求められています。法的根拠が何であるかに関わらず、海洋保護区は「生物多様性の保全」を目的として選んでいるのであり、その目的に照らしてチェックしていくことが極めて重要です。

➁瀬戸内海での海洋保護区を拡大すること

 図1で見たように、大阪湾、播磨灘中東部、伊予灘・周防灘・豊後水道の沖合域など未選定の海域を、海洋保護区にすることを検討すること。
 これについては、一つの視点として、環境省が、愛知目標を進める際の参考資料として2014年に選定した「生物多様性の観点から重要度の高い海域」を活かすことがあります。沿岸では全国で270海域が選定され、そのうち58海域が瀬戸内海にあります。例えば大阪湾の東半部は、イシガレイ、ヒラメ、スズキなど複数種の産卵域が重なっているなどを理由として「重要度の高い海域」の一つ(海域番号13405)です(図2)。これを活かせば、海洋保護区にすることは可能なはずです。

図2 大阪湾、播磨灘東部における「生物多様性の観点から重要度の高い海域」

4.「経済・社会・政治・技術にわたる横断的な社会変革」をめざして
 昆明・モントリオール生物多様性枠組や日本の生物多様性国家戦略では、ともに「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」(IPBES(イプベス))が2019年に「生物多様性に関する地球規模評価報告書」で示した「生物多様性の損失を止め、回復させるためには、経済・社会・政治・技術にわたる『横断的な社会変革』が必要である」という下りが引用されています。
 この「横断的な社会変革」について環境省は、「IPBESは科学者が科学的エビデンスを集積して様々な提案や主張をする機関である。生物多様性枠組みはそれをルール作りのよりどころにしている。世界各国の努力にもかかわらず生物多様性は下がり続けていることから、場所を守るだけでなく消費活動から見直す必要があり、経済・行動変容などを新しい枠組みや国家戦略に盛り込むようになったと承知している」(注)としています。
 経済・社会・政治・技術にわたる「横断的な社会変革」とはどういうことなのかは定かではありません。しかし「横断的な社会変革」のためには、埋立てや採石を公認し化石燃料や地下資源に依存する浪費型文明や、これを直接・間接に支える法体系(例えば公有水面埋立法、採石法、環境影響評価法など)を<生物多様性保全の観点から全面的に見直す>という大仕事が含まれていると考えます。第2節で述べた海洋保護区に関する法的規制の確立は、その大きな一歩です。
 そのためには政府や行政に任せるのではなく、市民・住民が生物多様性への関心を持ち、海洋保護区における生物多様性の保全を求めていく活動を強めていくことが必要です。また、これらを実現するためには国会議員や政党の力も重要であり、働きかけていくことも不可欠です。

(注)2025年1月8日、環瀬戸内海議による環境省へのヒアリング内容
   湯浅一郎『「生物多様性」に関する環境省ヒアリング』瀬戸内トラストニュース第85号4ページ